2014年の7月に、イギリスの科学雑誌「ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ニュートリション(BJN)」に、「有機栽培の野菜は従来の農薬を使用する栽培の野菜に比べていくつかの点で栄養的に優れている」という研究結果が掲載されました。
この研究が示した結果は大きく二つ。
- 有機野菜は農薬を使用する栽培の野菜に比べて、抗酸化物質が18~69%多く含まれているということ。
- 抗酸化物質の濃度が高いと、食物がもつ人間の感覚器を刺激する性質(味、香り、舌ざわりなど)が変化し、またわれわれが食物独自の味わいを感じ取る感覚にも影響を与えるということ。
この論文は、無農薬無化学肥料で有機野菜を栽培する私自身にとって嬉しい結果です。
だけれども、一つ言えるのは、
「有機野菜」という野菜のすべてに対していえることではない
ということです。
この結果から農家直送で有機野菜を宅配する農家に必要なことを再考しました。
参考になれば幸いです。
一つ目の有機野菜が「健康的」という結果について
一つ目の結果は、「有機野菜は農薬を使用する栽培の野菜に比べて、抗酸化物質が18~69%多く含まれている」。
まず抗酸化物質というのは、読んで字のごとく「酸化に抗う物質」。
人が吸った空気の酸素の中でエネルギーに使用されなかった酸素は酸化してしまいます。金属で考えれば、さびついた状態と考えていただくと分かり易いかと思います。
つまり、「体内がさびないように抗う物質」を有機野菜は多く含んでいるということです。
有機栽培では、従来の農法で広く普及している化学農薬は使われません。さまざまな害から守ってくれる農薬がないということで、有機栽培の野菜は、みずから抗酸化物質と呼ばれる化合物をより多く作り出し、自身の体を守ります。
その野菜を人間が食べたとき、抗酸化物質は、今度はわれわれの体を守ってくれる
ということになります。
では、その抗酸化物質が18~69%多いという幅があることに関して考えてみると、有機栽培を実践する各有機農家によって結果が異なるということがいえます。
ちなみに、
※1.この研究では343本の論文を分析し結論を導き出していることからデータ量としては十分。
※2.個々のデータがどのように分布していて、どの部分が多いかはわからない。
もちろん、農業は栽培する地域、気候、天候、など同一条件で有機農家が栽培するということは不可能なので幅が出ることは当たり前ですが、有機栽培という大きな枠の中でも各農家自身の栽培理論、栽培管理方法などで結果が変わるということです。
二つ目の有機野菜が「おいしい」という結果について
二つ目の結果は、「抗酸化物質の濃度が高いと、食物がもつ人間の感覚器を刺激する性質(味、香り、舌ざわりなど)が変化し、またわれわれが食物独自の味わいを感じ取る感覚にも影響を与える」
この文章では、「おいしい」という言葉は出てきていません。それもそのはずで「おいしさ」という人の感覚をデータで評価することは難しいのです。
でも、この文章は次のようにイメージ(置き換え)できるのではないかと思います。
例えば、
「抗酸化物質の濃度が高い」というのは、
- 切った後に時間が経っても変色しにくいリンゴ
- 時間が経過しても酸化しにくい揚げ物
- 時間が経過しも酸っぱくなりにくいコーヒー
などを食べるということは、そのもの本来の味を味わうということに近く、これを続けていくと、ヒトの味覚、嗅覚、触覚などの感覚器が変化し、食物独自(本来)の味わいを感じ取る感覚器に影響を与える」
このよう例えると、少し分かり易くなります。
文中の「これを続けていくと」、と書きましたが、これは私の見解で、やはり続けるということで身体が変化していくものと思います。
また、例に挙げたりんご、揚げ物、コーヒーなどは
酸化しにくくおいしい状態が長く持続するという例えですが、
やはり、
- 切りたて
- 揚げたて
- 淹れたて
が美味しいのは当たり前で、野菜であれば「獲れたて」。
この「収穫するタイミング」もそれぞれの有機農家自身に委ねられています。
なぜ「有機野菜」の全てに対して言えないのか
の中でも触れていますので重複する内容になりますから、ここでは端的に書くと、「有機野菜は育てる人によって大きな差がある」ということ。
なぜか?
それは、栽培方法には、
- 無農薬無肥料でも有機野菜
- 無農薬無化学肥料でも有機野菜
- 堆肥だけ使っても有機野菜
- 有機で使用可能な特定農薬を使って、無化学肥料で育てても有機野菜
と、いろんなやり方で取り組む有機農家がいます。
それよりも大事なのは、まず前提として「植物生理に合致する理論を併せ持っているか」、ということです。
これが欠落していると、有機野菜に含まれる抗酸化物質の量というものは大きく変わってくるでしょう。
例えば、植物に必要な栄養素の代表格として、
- 窒素
- リン酸
- カリウム
の三つがありますが、他にも必要な栄養素として、
- カルシウム
- マグネシウム
- 鉄
- 銅
- 亜鉛
- マンガン
- ホウ素
- 塩素
など、植物生理にはたくさんのミネラルが必要であることが分かっています。
栄養素は植物にとっての化学的な観点ですが、他にも、
- 土がフカフカしているかどうかという物理性
- 畑の中にいる微生物が植物にとって良いかどうかという生物性
の観点も必要です。
これらの植物に必要な環境をいかに整えてあげられるか?
それは、有機農家自身によります。
まとめ
おさらいとして、
- 有機野菜は農薬を使用する栽培の野菜に比べて、抗酸化物質が18~69%多く含まれている。
- 抗酸化物質の濃度が高いと、食物がもつ人間の感覚器を刺激する性質(味、香り、舌ざわりなど)が変化し、またわれわれが食物独自の味わいを感じ取る感覚にも影響を与える。
有機栽培を実践する農家からすれば非常にうれしい論文です。
でも、上述の通り、有機栽培だからといってすべての有機野菜がそうであるとは言い切れないこともわかっています。
農家は畑で仮説、実践、検証を繰り返し行って、その精度を上げていくしかありません。
有機野菜を宅配する農家としては、
- 植物生理に基づいた理論から栽培方法への変換とその精度向上
- 旬、品種、鮮度
をさらに意識していこうと思わせてくれる論文でした。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
参考になれば幸いです。