無農薬無化学肥料の有機栽培で年間約50~60品目(100品種以上)の野菜を育てていると、季節の変化、そして、それに伴う野菜の移り変わりを感じずにはいられません。
- 春先はまだまだ寒く、葉物や根菜はゆっくりと朝露を受けて育ち
- 梅雨のころから果菜類が元気に雨を受けて育ち
- 初夏の頃には葉物から果菜類へ野菜セットの様相が変わり
- 秋、冬へ向かうと寒さとともに葉物が甘みを増して美味しく育つ
そういう季節の移り変わりの中で、野菜とヒトはよく似ていると感じます。
- 適度なストレスで成長(生長)する
- 自分を取り巻く環境に依存する
- 小さい頃はしっかり面倒を見て、あとは適宜観察し、手を添える。
代わって、大きく違う点は、
- 動物:動く物
- 野菜:植わっている物、動かない物
です。
至極当然な違いなんですが、野菜は動けないからこそ、特有の風味や作用を持つようになりました。
今食べられている野菜(草本性植物:木のように大きく、硬くならない草花)の歴史は、ヒトが出現したのと同じ数百万年前からといわれています。
ともに進化して歩んできたヒトと野菜。
ある意味、ヒトのパートナーである野菜の特徴についてお届けします。
野菜は優秀な化学合成工場
野菜は動かないので、基本的に自給自足しなくてはなりません。
野菜がどのようにしているのかといえば、
CO2 + H2O → CH2O + O2
土壌から水分とミネラルを、大気から二酸化炭素と水を、太陽から光からエネルギーを受けて「光合成」することで、炭水化物(CH2O)と酸素を得る。
これらの素材はすべて確実なもので、その確実性を利用するために野菜は効率的な構造になっています。
こう考えると、植物は固定された優秀な化学合成工場のように捉えられますよね?
- 炭水化物を合成する部屋
- 炭水化物を貯蔵する部屋
- 化学物質を移動する管
これに対して動物は、食べ物を探し出さなくてはなりませんから、化学エネルギーを物理的なエネルギーに変える筋肉タンパク質が中心になります。
植物は動けない代わりに、その優れた化学合成工場を駆使して生きています。
それによって、
- 細菌
- カビ
- 昆虫
- ヒト
が嫌うような強い味、毒性を持つ多種多様な物質を合成する。
例えば、
- 唐辛子カプサイシンの刺激成分
- 玉ねぎに含まれる催涙成分
- コーヒー中のカフェイン
- トマトのソラニンといった苦味や毒性を持つアルカロイド
その他にも、果実種子の多くに含まれる青酸化合物、消化酵素阻害物質などの消化を妨げる物質など。
でも、ここで一つの疑問が沸いてきます?なぜ自然界の動物たちは、その犠牲となっていないのか?
解毒もするけど好んでも食べる「ヒト」のあまのじゃくな部分
それは、動物が有害物質を見分けて、近づかないように学んだから。嗅覚と味覚を使い、微量の化学物質でも感知することができる。
動物は生まれながらにして、強力な味に対して適切に反応できる能力を持っているから。
アルカロイドや青酸に特徴的な苦味を避け、糖に含まれる甘味を好みます。ヒトが、植物を選別して、品種改良をし、調理するということも、巧妙な解毒の方法。
毒性の物質を加熱することで分解し、ゆでることで洗い流す。
一方で、その植物の持つ毒をむしろ好んで食べたがるのもヒトの一面。
- カラシや唐辛子、タマネギ
- ハーブやスパイスの持つ特有の香り
- コーヒーの苦み
などの、刺激性の警告サインの中にはさほど有害ではないと分かったものについては、敵を遠ざけるという本来の目的に反して刺激的な感覚を楽しんでいます。
まとめ
以上をまとめると、
- 野菜は動けないからこそ、強い風味や作用を持ち外敵から身を守ってきた
- 動物は微量であっても有害物質を感知できる嗅覚と味覚を持ち、身を守ってきた
ということが、それぞれの特徴です。
野菜(vegetable)の語源はラテン語の動詞「vegera」で、意味は「元気づける、活性化する」です。
数百万年前からともにパートナーとして歩んできたヒトと野菜。食べることで元気をもらい、身体を活性化してくれるのは昔も今も変わりません。