
インターネット上で
- 「有機野菜 危険」
- 「有機栽培 野菜 危険」
と、検索すると
- 「危険です」という記事
- 「安全です」という記事
の二つがそれぞれ、検索結果として表示されます。
一つの意見が出れば、そのことについて意見が分かれるのは至極当たり前なことですよね?
国会の与党と野党の関係のように、一つの議題に対して異なる意見が出てくるというように。
翻って考えてみれば、意見が一つしかないというのも問題です。
例えば、
- 野党の反論や異論がなく与党の法案が、全会一致で国会を簡単に通る
- 何か新しいことを始めようとしたときに、反対する人がいない
という場合、
- 様々な意見がないので「多面的」に取られることができないため、
課題や問題を発見することができない - 多少の反対があっても乗り越えるくらいの本気度が問われていない
このような、課題が浮き上がってきます。なので、
- 「有機野菜は危険である」
- 「有機野菜は安全である」
と、意見が二つあるのは良いことではないでしょうか?
大切なのは、二つの意見のどちらの立場にも立ってみるということ。
ネット上の議論なので、筆者が
- 有機農家
- 大学教授
- ブロガー
- 編集者
のどういう立場かなのか、よくわからない記事もたくさんあるとは思いますが、
有機農家の立場として「なぜ危険だ、安全だ」となるのか冷静に分析してみます。
参考になれば幸いです。
「有機野菜が危険だ、安全だ」とされる議題
有機野菜が危険、安全となるのはなぜでしょうか?
議題は主に二つあります。
一つは、「安全基準」についての議題
- 有機JASの基準はどういうもの?
- 農薬を使えるの?
- 農薬を使うとやっぱり危険なの?
もう一つは、「有機質肥料の使用」に関する議題
- 未熟堆肥の使用は大丈夫?
- 大量投入による硝酸態窒の影響が心配
- 化学肥料と農薬を使用していないから安全なの?
この二つについて考えます。
安全基準について
まずは「安全基準」について。
有機JAS規格は以下のように規定されています。
以下は、有機農産物の日本農林規格、(目的)第2条です。
農業の自然循環機能の維持増進を図るため、化学的に合成された肥料及び農薬の使用を避けることを基本として、土壌の性質に由来する農地の生産力(きのこ類の生産にあっては農林産物に由来する生産力を含む。)を発揮させるとともに、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法を採用したほ場において生産すること。
つまり、ポイントは、
「化学的に合成されたものを使わずに、環境に良く、循環が可能な、持続的な農業を行いましょう」
という栽培方法。
なんとなくご存じなのではないかと思います。
では次に、
農薬を使っていいのか、ということに関しては以下の通りです。
第4条 有機農産物の生産の方法についての基準は、次のとおりとする。
ただし、農産物に重大な損害が生ずる危険が急迫している場合であって、
耕種的防除、物理的防除、生物的防除又はこれらを適切に組み合わせた方法のみによってはほ場における有害動植物を効果的に防除することができない場合にあっては、
別表2の農薬(組換えDNA技術を用いて製造されたものを除く。)に限り使用することができる。※「ほ場または栽培場における有害動植物の防除」の項の抜粋。
参照:農林水産省ページ
と、あります。
よく分からない専門用語もあるかもしれませんが、ポイントは、
重大な損害が生ずる危険が急迫している場合は定められた農薬は使用できるということであり、
「有機野菜」は必ずしも「無農薬野菜」ではないということになります。
だから、農薬を使用している有機野菜があるかもしれないから、
ネット上で「危険だ」と、なっているのですね。
ではその農薬は、そもそも「危険」なのか?という疑問符が付くかと思いますが、
ここから先は今の農薬の安全基準を「読者の方自身が信用するかどうか」という判断に委ねられます。

しかし、中には日常生活でよく使う「食酢」や「重曹」を農林水産省が農薬とされていることには疑問符がついてしまいますが
よければ以下の記事を参照ください。
有機質肥料の使用について
続いて、有機質肥料の使用に関する議題です。
堆肥には状態によって、「完熟」、「未熟」があります。
※中間の状態の堆肥を中熟堆肥と呼ぶ場合もある
- 完熟とは、土の微生物たちが分解しやすい有機物(易分解性有機物)が、分解されている状態。
- 未熟とは、土の微生物たちが分解しやすい有機物(易分解性有機物)が、分解されていない状態。
簡単に、「お米」で例えてみましょう。
それぞれ、
- 完熟堆肥は、お米を炊いて、吸収しやすいカタチで人が食べる
- 未熟堆肥は、お米を炊かずに、吸収しにくいカタチで人が食べる
このような違いだと考えてください。
お米を炊かずにそのまま食べれば、消化不良を起こしてしまいますよね?
ただし、「どのように」、畑へ施すか(施肥)が大事になってきます。
え?どんな堆肥も同じように施肥するんじゃないの?
と思われるかもしれませんが、それぞれ異なります。
- 完熟堆肥は、土の中へ深く鋤き込ん(土と混ぜる)でもOK。
土に施しても急激に分解することなく、土壌施用後もゆるやかに分解が続く状態になっているから。
これに対して、
- 未熟たい肥は、土の中へ浅く鋤き込む。
浅くすきこむことで空気が供給される条件となり、土が発酵し、団粒構造(土がフカフカになる構造)
注意点は「深くい鋤き込まないこと」と「施用後一か月してから作付けする」ということ。
お米が炊けていないので「炊ける状態」にして「炊けるまでの期間」が必要ということですね。
堆肥の状態によって施肥の仕方はそれぞれ異なるので、
一概に未熟だから悪い、完熟だから良いとは言い切れません。
堆肥の状態は、施肥の仕方と合わせて考える必要があると思います。
次に、堆肥の大量投入について。
まずそもそも堆肥がどういう「目的」で用いるのかといえば、
- 肥料的な役割
- 土づくり(物理性、生物性の改善)
ということを目的に使用します。
そして、堆肥と一口に言っても色々な種類があって、
- 牛糞
- 鶏糞
- 豚糞
- 馬糞
- バーク堆肥
- 生ごみ堆肥
など。
これらの何が違うのかといえば、「C/N比」が違います。
専門用語が出てきましたが要は、C:炭素とN:窒素の割合です。
- C/N比が小さいほど肥料的な要素が大きく、土つくりの要素が小さい
- C/N比が大きいほど肥料的な割合が小さく、土つくりの要素が大きい
という性質があります。
つまり、堆肥の種類によって使い方が異なるということです。
C/Nが大きければ大量に投入しても問題はありませんが、
いくら有機質の肥料だからといってC/N比が小さいもの
(肥料的な要素が強いもの)を大量に投入すれば栄養過多になってしまいます。
堆肥の種類(C/N比)についても、先のことと併せて考える必要があります。
長くなってしまいましたが以上をまとめると、堆肥は
- 堆肥の状態:完熟なのか、未熟なのか
- 堆肥の種類:牛糞、鶏糞、豚糞など、どの種類を施用するのか
- 施肥の量と使用方法:どのくらいの量を、浅くあるいは深く鋤き込むのか
という、堆肥の「状態×種類×施肥の仕方」という複合的な捉え方が肝心ということですね。
これらのうち一つだけでなく、三つをまとめて考える必要があります。
有機農家は「野菜をより良く育てたい」と考えている
有機農家に限った話ではないと思いますが、
農家は皆野菜をより良く育てたいと考えているはずです。
- より美味しい野菜
- よりたくさん採れるように
と考えて、暑い真夏日も、雨が降るときも畑に出て野菜と向き合います。
つまり、より良い野菜、米をお届けして「生業」としているのです。
今まで述べてきたようなことは、農家は当たり前に知っていることだと思います。
なぜなら、誤った方法によって野菜やお米が収穫できなければ、
有機農家自身が大変になってしまうだけですからね。
- どんな肥料を
- どれくらいの量
- どんな施肥の仕方をするのか
用法容量を守らなくてはなりません。
ただ、中には偽った商品を出す農家もいるのかもしれません。
このようなことも「有機野菜が危険だ」といわれる要因なのかも。
今はインターネットやアプリを使って自由に、「無農薬野菜、有機野菜」として
出品できる世の中になりましたのでそこに注意は必要だと思います。
まとめ
結局、読者の方は何をどう判断するといいのか。
有機野菜を宅配するときには、
- 上記のような内容をなるべく開示している有機農家を探して、あるいは、会社を探して、
- その有機農家や会社がどのような基準に基づいて栽培しているのか、
- どのような肥料を施肥しているのか
を調べた上で、自分自身が納得できるところから宅配する、ということでしょう。
有機野菜が「危険、安全」という農家、あるいは、教授、ブロガーなどの意見について一度、
それぞれの立場に立って冷静に分析、判断してみてはいかがでしょうか。
長文になりましたが、最後までお読みいただいてありがとうございました。